このページについて
2026年8月31日、IPAがITパスポート試験のシラバス案 Ver.0.1とサンプル問題(4問)を公開しました。読んでみると、これは「用語をいくつか入れ替えた」という規模の改訂ではありません。2009年のITパスポート試験創設以来続いてきたストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系という分野の建て付けそのものが解体され、「ビジネス/テクノロジ/セキュリティ・倫理」の3分野に組み替えられます。
そして新体系のまん中には、大分類2「データ・AIの利活用」が座っています。ここには「データマネジメント」という中分類が入っており、本サイトが追いかけているデータマネジメント試験(仮称)の重点分野と同じ枠組みです。ITパスポートは、データマネジメント試験の入口として明確に位置づけ直されたと読めます。
このページでは、シラバス案 Ver.0.1 で何が変わったのかを整理し、あわせてその変更がどのような社会変化から生じたものなのかを読み解きます。因果関係の読み取りは本サイトの解釈であり、IPAが明示しているものではない点にご注意ください。
2026年9月4日時点のIPA公開情報をもとに作成
シラバス案
「ITパスポート試験 シラバス(案)Ver.0.1」が2026年8月31日に公開。全22ページで、新体系の大分類・中分類ごとに小分類・項目・用語例が示されている。内容は公表時点の検討状況に基づくもので、変更される可能性があるとIPAが明記している。
サンプル問題
同日に4問が公開。内訳はマインド・スタンス分野1問/データマネジメント分野2問/情報倫理・AI倫理分野1問。いずれも新設・再編された分野からの出題で、新体系のどこに重心があるかを示している。
出題範囲(大枠)
2026年3月公開の「出題範囲等の改定案 Ver.1.0」で、全試験区分共通の3分野・7大分類・30中分類の体系が確定済み。ITパスポート試験の出題範囲は、このうち26中分類(大分類5「システムの開発・運用」の中分類20〜22と、中分類26「セキュリティ実装技術・評価」を除く)。
評価される水準
改定案では、ITパスポートは〔知識〕4項目に加えて〔マインド・スタンス〕という枠が設けられ、「社会、ビジネス環境及び顧客ニーズの変化を認識し、DXの重要性を理解して自分事として捉え、変革に向けて行動するマインド・スタンス」を評価するとされている。知識だけを問う試験ではなくなる。
開始時期
2027年度から新試験制度が開始予定。ITパスポート試験は、情報セキュリティマネジメント試験・基本情報技術者試験とともに先行して移行する区分と位置づけられている(データマネジメント試験・プロフェッショナルデジタルスキル試験はその後)。
シラバスの確定版
現時点で公開されているのは「案」のVer.0.1。確定版の公表時期は未発表。
試験時間・出題数・実施方式
新制度でのITパスポート試験の時間・問題数について、現時点で本サイトが確認できた公表情報はない。
「出題範囲等の改定案 Ver.1.0」に基づく全試験区分共通の体系
現行のITパスポート試験はストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の3分野で組み立てられています。これは「経営の話」「開発とプロジェクトの話」「技術の話」という、情報システムを作る側から見た切り分けでした。新体系では、この3分野が解体され、次のように組み替えられます。
| 分野 | 大分類 | 中分類 | IPの出題範囲 |
|---|---|---|---|
| ビジネス | 1 ビジネス変革 | 1 ビジネス変革の方法論/2 経営戦略・デジタル戦略/3 ビジネスモデル・ビジネスプロセス/4 サービスマネジメント/5 プロジェクトマネジメント/6 デザインのアプローチ/7 マインド・スタンス | 全て範囲 |
| ビジネス | 2 データ・AIの利活用 | 8 データマネジメント/9 データ分析・データ利活用/10 AI利活用 | 全て範囲 |
| ビジネス | 3 組織活動 | 11 経営・組織論/12 ガバナンス・監査 | 全て範囲 |
| テクノロジ | 4 デジタル技術 | 13 デジタルサービス・デジタルツール/14 システムの種類・構成/15 クラウド/16 ネットワーク/17 データベース/18 AI技術/19 情報デザイン・情報メディア | 全て範囲 |
| テクノロジ | 5 システムの開発・運用 | 20 システムライフサイクルプロセス/21 開発・運用の方法論/22 アルゴリズム・プログラミング | 範囲外 |
| セキュリティ・倫理 | 6 セキュリティ | 23 情報セキュリティの脅威/24 情報セキュリティマネジメント/25 情報セキュリティ対策/26 セキュリティ実装技術・評価 | 23〜25が範囲 (26は範囲外) |
| セキュリティ・倫理 | 7 倫理・コンプライアンス | 27 情報倫理・AI倫理/28 ビジネス関連法規/29 プライバシー関連法規/30 セキュリティ関連法規 | 全て範囲 |
シラバス案の用語例から読み取れる、変更と社会の動きの対応関係
シラバス案に並ぶ新しい用語を眺めると、それぞれが「ここ数年で社会の側に起きたこと」に対応していることが見えてきます。整理すると次の6つになります。
| 社会の変化 | 試験への反映 |
|---|---|
| 生成AIが一般の業務に浸透し、さらにAIエージェントが実務に入り始めた | 中分類10「AI利活用」が新設され、識別AI・生成AI・AIエージェントが並列で立つ。中分類18「AI技術」にLLM・コンテキスト内学習・RAG。用語例にAX(AIトランスフォーメーション)、フロンティアAIの影響、フィジカルAI、ガードレール、自律性と人間の関与が入った |
| データ活用が情報システム部門の仕事ではなく、業務部門自身の仕事になった | 大分類2「データ・AIの利活用」がビジネス分野の独立した大分類に昇格。中分類8「データマネジメント」でデータガバナンス・データライフサイクル・データ品質管理・メタデータ管理・DIKWモデルを扱う。従来テクノロジ系に散っていたデータの話が、ビジネスの話として括り直された |
| DXの障壁が技術ではなく人と組織の側にあると認識され、デジタルスキル標準(DSS)が整備された | 中分類7「マインド・スタンス」が新設され、知識ではなく行動・姿勢が出題対象に。中分類6「デザインのアプローチ」(人間中心設計・カスタマージャーニーマップ・ユーザビリティテスト)も新設。中分類1にイノベーションマネジメント・チェンジマネジメントが入った |
| 偽情報・ディープフェイク・SNSでの分断が社会問題として可視化された | 大分類7「倫理・コンプライアンス」が独立。中分類27「情報倫理・AI倫理」にデジタルシティズンシップ、偽情報(ディスインフォメーション)/誤情報(ミスインフォメーション)/悪意ある情報(マルインフォメーション)、エコーチェンバー、フィルターバブル、デジタルタトゥー、ファクトチェック、説明可能なAI(XAI)、ヒューマンインザループ(HITL) |
| ランサムウェア被害・サプライチェーン攻撃が常態化し、量子計算機の脅威も現実味を帯びた | 大分類6「セキュリティ」に3中分類が割かれる。ゼロトラスト、パスキー、耐量子計算機暗号(PQC)、イミュータブルバックアップ、EDR、3つのラインモデル、そして「AIを悪用した攻撃」(フィッシングの巧妙化、マルウェア亜種の生成、ディープフェイク)とプロンプトインジェクションが用語例に加わった |
| AI・GX・取引適正化をめぐる立法が相次いだ | 中分類28にAI基本法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)、情報流通プラットフォーム対処法、GX推進法、中小受託取引適正化法(取適法)、限定提供データ。中分類30にサイバー対処能力強化法が入った |
ITパスポート試験 シラバス案 Ver.0.1 より、用語例のうち特徴的なものを本サイトが抜粋・整理
現行のITパスポートでも「ビッグデータ」「データマイニング」といった語は登場していました。しかしそれらは経営戦略やデータベースの話の一部として散らばっていました。新体系では、データとAIだけで一つの大分類を占め、その先頭に「データマネジメント」が置かれています。
【内容】担当業務で日々発生するデータを適切に管理して、データを業務改善や意思決定に利活用できるようにするために必要な、データマネジメントに関する基礎知識を問う。
この中分類の小分類は、本サイトのテーマ解説で扱っている5テーマ(データガバナンス/データ品質/メタデータ/データドリブン経営/データ基盤)とほぼそのまま重なります。ITパスポートで名前を覚え、データマネジメント試験で実務の判断まで問われる、という段階設計になっていると読めます。
データレイク/DWH/データマートの役割の違いや、ELT/ETLといった語がITパスポートの用語例に入っている点が目を引きます。従来は上位区分の話題でした。
注目したいのは、AIの分類が「機械学習の種類」ではなく「識別/生成/エージェント」という使う側の目的で切られていることです。技術の内部構造ではなく、業務でどう使うかを問う設計になっています。
シラバス案を通して読んでいて、いちばん異質に見えるのが中分類7です。他の中分類は「小分類/項目/用語例」の3列表なのに、ここだけ3列目の見出しが「行動例/用語例」になっており、中身も用語ではなく文章です。
この8項目は、IPAが2022年から整備してきたデジタルスキル標準(DSS)の「共通スキルリスト」に定義されたマインド・スタンスとほぼ同じ構成です。つまりITパスポート試験は、人材標準の側で先に定義された「DX時代のビジネスパーソンに求められる姿勢」を、試験の出題範囲として取り込んだことになります。
本サイトの文脈で注目したいのは「事実に基づく判断」です。「勘や経験のみではなく、客観的な事実やデータに基づいて」という一文は、データドリブン経営そのものです。しかも後半に「適切なデータの入力を意識して行っている」とあり、データを使う側だけでなくデータを作る側の姿勢まで求めています。これはデータ品質の話であり、ITパスポートの段階からデータマネジメントの問題意識が入り込んでいることを示しています。
新シラバス案では、AIが一箇所にまとまっているのではなく、性格の違う3つの中分類に分かれて配置されています。
ビジネス分野。識別AI/生成AI/AIエージェントを業務のどの場面で何のために使うか。AI事業者ガイドライン、人間中心のAI社会原則、ガードレール、自律性と人間の関与。
テクノロジ分野。機械学習(教師あり/教師なし/強化)、過学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、大規模言語モデル(LLM)、コンテキスト内学習、トークン、検索拡張生成(RAG)。
倫理・コンプライアンス分野。説明可能なAI(XAI)、ヒューマンインザループ(HITL)、AIサービスのオプトアウトポリシー、ハルシネーション、差別的表現、根拠・出典不明の出力、ディープフェイク、フロンティアAIによるリスク。
セキュリティ分野に「AIを悪用した攻撃」という項目が立ち、標的型攻撃・フィッシング・なりすましの巧妙化、マルウェア亜種の生成、ディープフェイクが挙がる。プロンプトインジェクションも用語例に入った。
中分類1「社会変化の動向」の用語例には、DXと並んでAX(AIトランスフォーメーション)とフロンティアAIの影響が入りました。中分類14にはフィジカルAIがあり、AIが画面の中だけの話ではなくなっていることも織り込まれています。
現行のITパスポートでは、法務はストラテジ系の「企業と法務」の一部でした。新体系では大分類7として独立し、4つの中分類が割り当てられます。中でも中分類27「情報倫理・AI倫理」は新しい性格の分類です。
「デジタルシティズンシップ」「トロッコ問題」という語がITパスポートに入ったことは象徴的です。技術を使えるかではなく、社会の一員としてどう振る舞うかが問われる分類になりました。
ここに並ぶ法律の多くは2024年以降に成立・施行されたものです。試験範囲の更新が、立法の動きにそのまま追随していることが分かります。
もっと詳しく:何がどこまで外れるのか、シラバス案の全文検索の結果と「言い切れないこと」の線引きを出題範囲から外れるものにまとめました。
追加ばかりに目が行きますが、減る側も同じくらい大きな変化です。改定案の対応表では、ITパスポート試験の欄に大分類5「システムの開発・運用」(中分類20〜22)の丸が付いていません。
| 範囲外になる中分類 | そこに含まれる内容 |
|---|---|
| 20 システムライフサイクルプロセス | プロセス成熟度、システム要件定義・ソフトウェア要件定義、設計、実装・構築、統合・テスト、導入・受入れ支援、運用、保守・廃棄 |
| 21 開発・運用の方法論 | 開発ツール、開発フレームワーク、OSSの種類と特徴、アジャイル開発、DevOps、AI駆動開発、Webアプリケーション開発 |
| 22 アルゴリズム・プログラミング | 情報理論、データ構造、アルゴリズム、コーディング標準、プログラム言語、データ記述言語 |
| 26 セキュリティ実装技術・評価 | セキュアプロトコル、アプリケーションセキュリティ、セキュリティ評価基準(暗号・認証は中分類25に残る) |
ただしこれは改定案の対応表と公開されたシラバス案の記載範囲から本サイトが判断したものです。シラバス案はVer.0.1であり、確定版で変わる可能性があります。
2026年8月31日公開のITパスポート試験サンプル問題
1問ずつの解説はこちら:4問それぞれがシラバス案のどこから出ているかと、4問を並べて見える出題の癖をサンプル問題4問の解説にまとめました。
| 問 | 分野 | 題材 |
|---|---|---|
| 問1 | マインド・スタンス | 失敗を許容する方針のチームで、不安から動けないメンバーが取るべき対応(=反復的なアプローチ) |
| 問2 | データマネジメント | “データのサイロ化”の説明として最も適切なものはどれか |
| 問3 | データマネジメント | 顧客データに関するメタデータはどれか |
| 問4 | 情報倫理・AI倫理 | 生成AIサービスを事業活動で利用する際の留意事項(秘密保持契約・第三者提供・誤情報) |
4問中3問が、新設・再編された分野からの出題です。とくにデータマネジメント分野から2問出ていることは、この分野の比重を示していると考えられます。ここでは本サイトのテーマと直結する問2・問3を引用します。
サンプル問題 問2 — データマネジメント分野
データマネジメントが十分に行われていない場合に生じる“データのサイロ化”に関する記述として、最も適切なものはどれか。
正解:イ
サイロとは穀物などを貯める縦長の倉庫のこと。隣に並んでいても中身は行き来しません。データのサイロ化とは、部門ごとにデータが囲い込まれて相互に連携されず、組織横断で見られなくなる状態を指します。アはメタデータの不備、ウは表記ゆれというデータ品質の問題、エはデータライフサイクル(廃棄)の問題で、いずれも別の失敗です。似た症状を並べて、どの概念の話かを切り分けさせる出題です。
出典:ITパスポート試験 サンプル問題(独立行政法人情報処理推進機構, 2026年8月31日掲載)
サンプル問題 問3 — データマネジメント分野
顧客データに関するメタデータはどれか。
正解:ウ
メタデータは「データについてのデータ」、平たく言えばデータの説明書きです。ア(氏名・住所の値)はデータそのもの、イ(取引金額の合計)とエ(顧客数)はデータを集計した結果であって、どれも説明書きではありません。ウの「採番の規則や粒度の説明」だけが、そのデータをどう読めばよいかを説明しています。粒度(顧客を企業単位で数えるのか部門単位で数えるのか)を取り違えると集計が壊れるため、実務でも要になる情報です。詳しくはメタデータの解説ページをどうぞ。
出典:ITパスポート試験 サンプル問題(独立行政法人情報処理推進機構, 2026年8月31日掲載)
ITパスポートとデータマネジメント試験は、同じ中分類8「データマネジメント」を、違う深さで問う関係にあります。両者のシラバス案の用語例を並べると、その差がはっきりします。
| 小分類 | ITパスポート試験 | データマネジメント試験(重点分野) |
|---|---|---|
| データマネジメントの目的と考え方 | データドリブン経営、データマネジメント、データガバナンス、データライフサイクル、DIKWモデル | 左記に加えて、価値創出、データ資産、マスターデータ、トランザクションデータ、データスペース、SSOT(信頼できる唯一の情報源)、およびデータマネジメント不備によって生じるリスク(データの品質低下、未秩序なデータのサイロ化、コンプライアンス違反、意思決定の遅れ・精度低下、データスワンプ) |
| データガバナンス | (中分類8の用語例に名称のみ) | 独立した小分類として立つ。データガバナンスの基本行動(評価、方針又は指示、監視)、責任と権限(アカウンタビリティ)、データ品質ルール、エスカレーションルール、および運営体制(CDO、DMO、データオーナー、データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクト、組織構造(中央集権型・分散型・連邦型)) |
| データ品質管理 | (機能名として言及) | 独立した小分類。データ品質特性(正確性、完全性、一貫性、信憑性、機密性)、データ品質モデル、データクレンジングの目的と効果、データプロファイリング・アセスメント、データ品質マネジメント(計画・制御・保証・改善) |
| メタデータ管理 | (機能名として言及) | 独立した小分類。ビジネス/テクニカル/オペレーショナルの3分類、メタデータレジストリ、リポジトリ、データ辞書、ビジネスグロッサリー、データカタログ、データリネージ、メタデータ品質・ガバナンス |
| データ基盤 | データレイク/DWH/データマートの役割、ELT/ETL | 左記に加えて、データ仮想化、データコネクタ、データファブリック、セマンティックレイヤー、セルフサービス分析、データブレンディング、データプレパレーション |
ITパスポートでは「そういうものがある」と知っていれば足りたものが、データマネジメント試験では誰が責任を持ち、どう測り、どう直すかまで問われます。さらにデータマネジメント試験には科目B(技能)があり、シラバス案 Ver.0.1 では「データの適切な取扱い」「データ活用による意思決定、検証と改善」「データ活用の組織文化の醸成」「データ活用の向上」の4大項目16小項目が示されました。詳しくはデータマネジメント試験のページで整理しています。
まずは問題を解いて、新しい出題の感覚をつかんでみてください。
用語でつまずいたら、丸暗記する前に現場の言葉での解説をどうぞ。
新旧シラバス対応表を見る → / データマネジメント試験(仮称)のページへ → / X(旧Twitter)@dm_exam_site でも毎朝1問ずつ出題しています。
※ 本ページの変更点の整理、現行シラバスとの比較、および「社会変化との対応関係」は本サイト独自のものです。シラバス案はVer.0.1であり、確定版で内容が変わる可能性があります。